吸入ステロイド薬には、自分の力によって薬剤を吸入するドライパウダー製剤(フルタイドディスカス®、パルミコート®)と加圧ガスによって吸入するエアゾール製剤(フルタイドエアー®、キュバール®、オルベスコ®)があります。ドライパウダー製剤は、薬剤を吸い込むときにある程度強く吸入する必要があります。一方、エアゾール製剤は、タイミングを合わせる必要があり、うまく吸入できない場合は補助器具を使用すると効率よく吸入できます。いずれの製剤も気管支の末梢まで薬が達しないと十分な効果が得られないので、それぞれの吸入薬にあった吸入法で適切に吸入する必要があります。また、声がれや口腔カンジダなどの副作用予防のため、吸入後はどの製剤もうがいが必要です。
吸入ステロイド薬の副作用は、局所性には咳、のどの違和感、声のかすれ、口腔内真菌(かび)症などがあり、予防や症状軽減対策のためにうがいやスペーサーなどの吸入補助具が使用されます。吸入ステロイド薬は病変部に直接作用するため使用量が微量で、吸入に伴い消化管から吸収されるわずかの薬剤も肝臓で分解されるため、一般的な吸入量では注射薬や内服薬に比べ成長障害、骨粗鬆症、肥満、免疫機能の低下、白内障などの全身性の副作用はきわめて少ないとされます。
喘息では咳喘息や週に1回以上発作を起こす軽症喘息から慢性的に症状がある持続型喘息に至るまで、喘息の本態である気管支の炎症を抑えるために早期から吸入ステロイド薬を中心にした治療を開始、継続することが有効であることがわかってきました。早期の治療開始の結果、日常生活の制限の改善、発作に伴う入院日数の減少、救急外来受診回数の減少、呼吸機能の改善、重症化の予防、また喘息治療に関わる医療費も減少することなどがわかっています。
短時間作用性吸入β2吸入薬は喘息発作の改善や運動により誘発される発作予防などの目的で用いられます。吸入薬はネブライザーや携帯型ハンドネブライザーを用いた方式があります。ハンドネブライザーを使う時は、息を吐いて、その後吸い込みながらガス型はボンベを1回強く押しながら、また吸入パウダー型はボタンを押しながら薬を吸い込み、吸い込んだ状態で数秒間息を止め、そのあとゆっくりはきだします。効果が芳しくない場合は約20分後に再度吸入し、回復しない場合は再度反復(2~3回まで吸入)し、改善がなければ必ず病院を受診することが必要です。なお薬により1回あたりの吸入回数が異なります。主治医によく相談してください。
短時間作用性吸入β2刺激薬を使用しても症状の改善やピークフロー値の回復がない場合にプレドニゾロン換算で1日あたり0.5mg/kg体重の量のステロイド薬を症状や状態に合わせて、3~7日間投与しながら吸入ステロイド薬に移行するのが一般的です。患者が手持ちのステロイド薬を家庭に有していて、ピークフロー値や症状から患者が判断して服用するような喘息の自己管理に有用と考えられます。ただこのような自己管理は普段から患者と医師がよく治療について話し合い、患者が喘息状態の把握や治療法について十分な理解を持っていることが必要です。
乳幼児も、学童と同様に喘鳴(呼吸する時にゼイゼイと聞こえる音)と、せき込んだり、眠れなかったりなどの呼吸困難を繰り返す場合に喘息を疑います。原因は、遺伝やアレルギー体質、そしてRSウイルスによる重症な細気管支炎の既往などがあります。風邪をひいて医療機関を受診した際にゼイゼイしているねと何度か指摘されたり、風邪をひくといつもゼイゼイして苦しそうな咳をする場合は、喘息を疑ってみましょう。乳児喘息にも、年に数回の風邪をひいたときだけゼイゼイし、それ以外は全く元気な子供もいれば、アトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患を合併し、冷気やたばこの煙などの少しの刺激でもゼイゼイしてしまう子供もいるなど、いくつかのタイプがあります。タイプの判定は簡単ではありませんので、専門医に相談しましょう。
喘息発作の程度には、ゼイゼイしても普通の生活ができる小発作と苦しくて運動や睡眠などが困難になる中・大発作があります。小発作であれば、安静にして、水分補給をしながら、医師から指導されている吸入や内服で治療をしてみてください。中・大発作の場合と小発作でも家庭の治療でよくならない場合は医療機関の受診が必要です。特に、爪や唇の色が白っぽくてよくない、息を吸うときに胸がぺこぺこへこむ、苦しくて話したり歩いたりができない、ボーッとしたり、ひどく興奮するなどの症状は危険なサインです。自宅でできる治療をしながら、すぐに医療機関を受診しましょう。
喘息のお子さんの気管支には、好酸球という白血球を中心とした慢性の気道炎症がおこっていて、それは喘息発作がないときでも、治っていません。喘息発作のない日常生活を送るためには、この慢性気道炎症を治療すること(これを長期管理といいます)が、最も重要です。長期管理薬は、吸入ステロイド薬やロイコトリエン受容体拮抗薬を中心に使用します。お子さんの喘息の症状の重さと、頻度で病型を診断して、それに合わせて治療します(小児気管支喘息治療・管理ガイドライン)。 吸入ステロイド薬は、ステロイドホルモンですが、吸入で使用するので、全身への影響は少なく、安全性は確立しています。しかし、一部の論文で、長期の吸入ステロイド薬使用で、身長の増加がわずかに停滞することも報告されています。必要最小限の吸入ステロイド薬で治療するには、環境整備や正しい手技で上手に吸入することも大切です。環境整備の方法や吸入手技の確認は、専門医と相談してください。
吸入薬 | ステロイド(フルタイド、パルミコート、キュバール) クロムグリク酸ナトリウム(インタール) |
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内服薬 | ロイコトリエン受容体拮抗薬(オノン、シングレア、キプレス) テオフィリン薬(テオドール、テオロング)* 経口ステロイド薬(プレドニン) |
貼付薬 | ツロブテロール薬(ホクナリンテープ) |
*気管支拡張作用あり
( ) 主な商品名
小児期に喘息になった人の6~7割は思春期までに治ると考えられてきました。しかし、一時的によくなっても、また成人になってから喘息になる人がいます。成人の喘息をみると50%の人が子どもの時から喘息があります。海外のデータでは、子どもの時にひどい喘息発作を繰り返した人は成人になった時に、呼吸機能の低下がみられると報告されています。自然に治るものではなく、正しい治療(気道の炎症を抑える)を行って喘息を治すことが最も大切です。
タバコの煙は喘息をおこしやすくするし、発作もひきおこします。換気扇の下で吸っていても、お子さんに影響します。家族は禁煙するのが一番ですが、もし、どうしても無理な場合は室外で吸うようにしましょう。また、お子さんが大きくなってきたときには、喫煙は喘息に悪いということを説明して、成人になっても吸わないように早めに指導しましょう。
喘息の原因として、ダニによるアレルギーがあるお子さんが多くいます。室内のダニ量が増えると喘息発作がおこる場合があります。掃除機によりホコリを吸い取るのが効果的です。ジュータン、布製ソファー、古い布団や座布団にはダニが多くいので、なるべくこれらを使用しないほうがいいでしょう。カーテンやぬいぐるみなども、洗濯機で洗いましょう。
水槽で飼育できるペットは問題ありません。アレルギー症状をおこしやすいネコ、イヌ、ウサギ、ハムスターなどには注意が必要です。外国の論文で出生時早期からイヌやネコを飼育しているとその後のアレルギー発症が少なかったと報告されていますが、わが国では証明されていません。動物の毛そのものもアレルギーの原因となるし、毛にはダニがつきやすいので注意は必要です。どうしても飼育する場合は室外で飼育し、シャンプーすることがすすめられます。また、実際にペットと接触してアレルギー症状がでてしまった場合には飼育を中止する覚悟が必要です。
家庭環境以外に、運動や冷気は喘息発作をおこす誘因となります。特に冷たく乾いた空気を吸う冬季のマラソン、スキーやスケートでおこりやすいです。予防するには、鼻で呼吸、マスク着用、少しずつ運動することが有用です。運動前に喘息治療薬を使用した方がいい場合もあります。運動した時に発作がでる(運動誘発喘息)場合には普段の長期管理薬が十分でない場合があるので、担当医に相談しましょう。
風邪による鼻炎では発熱、咳、のどの痛み、頭痛、全身倦怠感などを伴うことが多く、初期には水性の鼻汁ですが徐々に粘性、膿性と変化してきます。鼻汁中の好酸球(アレルギーに関係する細胞)の割合、鼻の粘膜の所見、アレルギー検査などの結果を総合的に診断します。季節型アレルギー性鼻炎の代表は花粉症です。
アレルギー性鼻炎の25%程度に喘息の合併がありますが、気管支喘息では約70%にアレルギー性鼻炎が合併します。アレルギー性鼻炎が悪化すると喘息も悪くなる事が多く、アレルギー性鼻炎と喘息の治療を合わせて行う事が重要です。特にアレルギー性鼻炎のような上気道の病気と、気管支ぜんそく等のような下気道の病気は一つの病気として治療する事が必要です。またアトピー性皮膚炎など他のアレルギー疾患も合併しやすくなります。
副鼻腔炎は顔の骨の中にある副鼻腔におこる病気です。鼻腔と副鼻腔は中鼻道でつながっています。現在の副鼻腔炎の40%はアレルギーに関係していると考えられており、アレルギー性鼻炎は副鼻腔炎を悪化させる原因です。小児ではアレルギー性鼻炎のある場合約1/2で副鼻腔炎を合併しているとされています。
飲み薬に関しては、妊娠の時期、症状の強さを考える必要があります。点鼻薬は血管収縮薬以外は比較的安全に使用する事ができます。国立成育医療センター「妊娠と薬情報センター」で妊娠、授乳中のお薬に関して相談することができます。
アレルギー性鼻炎は自然治癒のすくない病気です。原因をさける環境整備に加えて、症状が日常生活にさしさわらない程度まで治療を行います。治療の中心は抗ヒスタミン薬と点鼻薬で、小青竜湯などの漢方薬が効く場合もあります。手術には鼻閉を改善する手術、鼻汁を減らす手術、レーザーを用いてアレルギー反応の場を減らす手術があります。また最近では免疫療法も根本的な治療法として注目されています。
皮膚を清潔に保つために、毎日の入浴、シャワーに心がけましょう。 以下に要点を列記します。
爪を短く切り、なるべく掻かないようにしましょう。手袋をはめたり、患部を包帯で保護して、ひっかき傷を作らないようにしましょう。
症状に合った強さのステロイド外用薬を正しい量をぬっていれば、広い範囲の副作用はほとんどみられません。
注射や飲み薬は全身にはたらくため、全身性の副作用が現れますが、ぬり薬は皮膚の患部に直接はたらくため、皮膚から吸収されても血中に入る量はきわめて少ないのです。通常の使用量であれば、全身性の副作用は現れません。
ぬり薬による副作用の多くは、薬をぬった部分の限られた場所に対するものです。こうした部分への副作用は、ステロイドの副作用の中でも軽い副作用に分類され、「薬をぬった部分に毛が増える」、「皮膚が赤くなる」、「毛細血管が拡張する」、「皮膚がやや薄くなる」などがあげられます。その他、「にきびの悪化」、「かぶれ」、「とびひ、みずむし、ヘルペス、ミズイボ(※註1)がまれに悪化する」といった症状もみられますが、医師の指導のもとに適切な対処をしていけばほとんど元に戻る心配のないものです。
また、「ステロイド軟膏をぬると肌が黒くなる」と言う人がいます。じつは、ステロイドは皮膚の色素の生成を抑えるため、肌の色はむしろ白くなります。アトピー性皮膚炎は皮膚の炎症ですので、ちょうど日焼けの炎症が治ると肌が一時黒くなるように、アトピー性皮膚炎も炎症がおさまった後は色素沈着が起こります。これがステロイドの副作用だと誤解されているようですが、実はもうしばらく根気強くステロイド剤を使っていくことで、健常な皮膚に戻っていきます。
薬の副作用については、医師や薬剤師にぜひおたずねください。副作用への不安や誤解を解消し、薬と上手につきあっていきましょう。
※註1
「ミズイボウィルス」:正式名称「ポックスウィルス」。
プロトピック軟膏はステロイドホルモンではないので、ホルモン作用による副作用はありません。皮膚からの吸収率が低いのでステロイド軟膏に比べると効果が弱めです。使用量の制限を守りましょう。
プロトピック軟膏はステロイドホルモンではない免疫抑制薬ですので、ステロイドホルモン作用による血管拡張・皮膚萎縮・多毛などの副作用がありません。欠点は顔や首の病変にはよく効きますが、体や手足の病変には効きにくいことです。これはプロトピック軟膏の皮膚からの吸収率(経皮吸収)が低いせいです。また、ぬったところがヒリヒリしたりほてったりするのも困ります。しかしこのヒリヒリ感は3、4日ぬり続けるとおさまってきます。一方、患者さんの中にはプロトピック軟膏だけで皮膚炎を良好にコントロールできるので、ほとんどステロイド軟膏を使用しなくてもいい人もいます。
プロトピック軟膏を使用する上で、2つの留意点があります。一つは、2歳未満の乳幼児には使用できないことです。これは2歳未満の乳幼児に対するしっかりとした臨床試験が行われていないためです。それから、1回使用量が体重10kgあたりおよそ1g以下に制限されていることです。1日2回までぬることができますので、体重10kgの幼児では、朝1g、入浴後1gぬれることになります。1gは少ないと思われるかもしれませんが、1gで成人の手4枚分の患部にぬることができますので、実は十分量です。この制限量を守っていれば、経皮吸収されたプロトピックが血中で連続して検出されることはありませんので安心です。
説明書には、プロトピック軟膏によるリンパ腫発生の可能性が書いてあります。大量にぬり続けると、血中にプロトピック軟膏が検出できるようになるのは当然です。上記のように、使用制限量を守っていれば安心です。日常診療での通常の使用では使用制限量を超えることはまずありません。皮疹が広範な場合でも、まずステロイド軟膏を使用して皮疹を軽快させてから、プロトピック軟膏に移行しますので、制限量以上の使用に至ることはありません。
紫外線に対する注意も必要です。海水浴・スキー・運動会・遠足などのように日光に過度に当たる日には、プロトピック軟膏はぬらないでステロイド軟膏をぬるようにしてください。通常の通学や遊びの時は外用していただいてかまいません。
アレルゲンと確認されているものは、避けるべきと考えます。必ず食物アレルギーに精通した医師または専門の医師に相談してください。食物アレルギーのページへ
まれに症状が良くなることはありますが、「治る」ことはありません。
よく「○○がアトピーに効いた!」、「△△でアトピーが治った!」という広告を目にしますね。しかし、それは間違いです。特に「アトピー性皮膚炎を起す体質が治る」、「完全に治る」というのは誇大広告です。ある人には効果があっても、必ずしも自分にも効くとは限りません。アトピー性皮膚炎は、長期慢性疾患です。良くなったり悪くなったりを繰り返す体質は変えられなくても難病ではありませんから、標準治療のコントロールのコツさえつかめば、適切な軟膏療法で、見た目では全く分からないほど症状をきれいにして、普通に暮らすことができる疾患です。
民間療法の種類は主に(1)体質改善、(2)乾燥肌の改善、(3)皮膚の殺菌・浄化、(4)炎症をおさえる効果に分けられます。(1)については、体質は遺伝に関わることなので、簡単に改善することはできません。
(2)は、たとえば乾燥肌用の保湿効果をうたっているものであれば、かぶれなど悪い影響がなければ、使用しても問題はありません。
しかし、多くのものは(4)の効果も同時にうたっており、ステロイド剤の代わりに使うことを宣伝していたりします。本来、体の中で炎症をおさえる働きをするステロイド剤を使わず、これだけで治そうとすると、かえって症状がひどくなるのです。
また(3)についてですが、健康な人の皮膚には常に菌はついています。ですから、けっして菌をゼロにする必要はありません。普通に入浴をして、低刺激性の石けんで強くこすらずに洗って皮膚を清潔に保てばよいのです。殺菌をするだけでアトピー性皮膚炎が良くなることはないのです。
民間療法のすべてが悪い、効かないというわけではありません。肌の保湿に関しては効果があり、患者さんの使用感もよく、症状に悪影響を与えるものでなければ、通常の治療法に加えることも可能です。ただし、その際には必ず医師と相談してください。
食物アレルギーの症状は表1に示すように非常に多彩です。ただし、これらの症状・疾患の原因のすべてが食物アレルギーではないことに注意して下さい。症状・疾患によって食物アレルギーが関与する頻度は大きく異なっています
食物アレルギーの症状で最もよくみられるのは皮膚です。約90%の患者さんは皮膚の症状を示します(図1)。
即時型の症状を呈する患者さんの約10%がアナフィラキシーという、全身蕁麻疹、喉頭浮腫、呼吸困難、血圧低下、意識障害といった重篤な全身症状を呈します。稀ではありますが生命にかかわることもあります。詳しくは「アナフィラキシー」を見て下さい。
小児期のアトピー性皮膚炎では食物特異的IgE抗体が高率に証明されますが、単純な即時型反応とは異なる反応です。IgE抗体が関与する非即時型反応という説明がなされています。食物が関与したアトピー性皮膚炎は2歳以下に多く、加齢とともに関与する頻度が減少していきます。
原因となりやすい食品の順位は、頻度が高い食品から卵、乳製品、小麦、甲殻類(エビ、カニ)、果物類、そば、魚類、ピーナッツ、魚卵(いくら)、大豆、木の実の順です(図2)。
また、年齢によって異なります。6歳までは鶏卵、乳製品、小麦が多く、その後は加齢とともにそば、甲殻類(エビ、カニ)、果物、魚介類などが増えます(表2)。欧米ではピーナッツが最も多い原因アレルゲンです。日本でもピーナッツアレルギーの患者さんが増える傾向にあります。
しかし、原因食品は個人個人で異なります。自分の原因の食品を明らかにして対応してください。
口腔アレルギー症候群は、食物の摂取によってひきおこされ、唇や口の中にかゆみ、ヒリヒリ感、腫れがみられます。時にのどがしめつけられる感覚が生じたり、稀にアナフィラキシーをきたすこともあります。
原因食物は果物・野菜が主です。また、花粉症を合併することが多いことも特徴です。これは果物・野菜の抗原と花粉抗原との間に共通抗原性が存在するためです。
花粉 | 果物・野菜 |
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シラカンバ | バラ科(リンゴ、西洋ナシ、サクランボ、モモ、スモモ、アンズ、アーモンド)、セリ科(セロリ、ニンジン)、ナス科(ポテト)、マタタビ科(キウイ)、カバノキ科(ヘーゼルナッツ)、ウルシ科(マンゴー)、シシトウガラシ、等 |
スギ | ナス科(トマト) |
ヨモギ | セリ科(セロリ、ニンジン)、ウルシ科(マンゴー)、スパイス、等 |
イネ科 | ウリ科(メロン、スイカ)、ナス科(トマト、ポテト)、マタタビ科(キウイ)、ミカン科(オレンジ)、豆科(ピーナッツ)、等 |
ブタクサ | ウリ科(メロン、スイカ、カンタロープ、ズッキーニ、キュウリ)、バショウ科(バナナ)、等 |
プラタナス | カバノキ科(ヘーゼルナッツ)、バラ科(リンゴ)、レタス、トウモロコシ、豆科(ピーナッツ、ヒヨコ豆) |
食物アレルギー診療ガイドライン2012(作成:日本小児アレルギー学会食物アレルギー委員会)より転載
乳幼児期に発症した食物アレルギーは年齢とともにその症状は軽快することが多いのですが、いつ治るかは個人差がありますし、原因食品によっても異なります。
一方、年齢が大きくなってから発症した場合やソバ、ピーナッツ、エビ、カニに対してアレルギー症状をおこした場合は、軽快することは少なく、長期間にわたって原因食品を除去します。
赤ちゃんにもアレルギー疾患が出やすい体質がうけつがれているかもしれませんが、離乳食を開始する時期は、普通の赤ちゃんと同じで構いません。
ハチ毒、薬物、食物によるアレルギー反応が代表的ですが、最近はラテックス(天然ゴム)によるものも認められます。造影剤や輸血などアレルギー反応によらないアナフィラキシー様反応、運動による運動誘発アナフィラキシー、原因の分からない特発性アナフィラキシーなどもあります。
アナフィラキシーでよくみられる症状として、じんましん、急に皮膚が赤くなったり、皮膚がむくんだり、かゆくなったりする皮膚の症状、咳が止まらなくなったり、ゼーゼーしたり、息をするのが苦しくなったりする呼吸器の症状、腹痛、気持ち悪くなったり、吐いたり、下痢が止まらなくなったりする消化器の症状、および血圧低下を伴うショック等があげられます。また視野が急に暗くなったり、しびれる感覚、脱力感、のどが締め付けられ詰まる感じなどもアナフィラキシーの自覚症状としてみられます。これらの症状は、体調やアレルゲンの量などによってをも異なります。
アナフィラキシーは、症状の発現を速やかに察知し、一刻も早く治療をしなければなりません。エピペン®を持っている場合は、速やかに使用してください。エピペン®を持っていない場合は、すぐに救急車を呼んでください。最寄りの医療機関あるいは救急施設に最善の方法で急行しましょう。医療機関では症状を緩和する目的で救急用として、抗ヒスタミン薬、ステロイド薬などに加えて、アドレナリンという薬が使われます。特にアナフィラキシーショックの時には、アドレナリンの筋肉注射が最初に行われます。
アドレナリンは、気管支を広げる効果や血管を収縮させて呼吸困難や血圧低下等のアナフィラキシー症状を劇的に改善させます。アナフィラキシーがある方は、主治医と相談してください。
エピペン®とはアナフィラキシーの補助治療薬としてアドレナリンの自己注射を患者さん本人や保護者の方が病院に行く前にできるように開発されたペン型の薬剤です。大腿外側部に注射します。
エピペンはハチ毒、薬物、食物によるアレルギー反応により声がれ、呼吸困難、喘鳴(ゼーゼー)などの呼吸器症状が出現してきたときに使うと効果的です。症状が軽減しても使用した際には必ず医療機関を受診して診療を受けてください。
どんな花粉によって花粉症は引き起こされますか。
花粉症の患者さんが花粉の曝露を受けると、直ちに発作性にくしゃみ、鼻水、鼻づまりがみられます。これを即時反応といいます。眼のかゆみ、充血といった眼症状もほぼ必発です。さらに花粉に曝露されて7時間以降にその時点では花粉の曝露はないにも関わらず、鼻づまりが見られることがあります。これを遅発反応といいます。即時反応に続いていろいろな炎症が引き起こされその結果として引き起こされる反応と考えられています。実際には花粉の侵入、即時反応、遅発反応が連続的に繰り返されていることになります。花粉症では、鼻や眼症状以外にのどの症状(かゆみ、刺激感)、咳、胃腸症状(痛み、下痢)、顔などの露出部皮膚の発赤、かゆみ、さらに頭重感、頭痛などの全身症状を訴える患者さんも半数以上にみられ、軽いうつ症状も数%の患者さんでみられるといった報告もあります。特に花粉飛散のピーク時には鼻や眼症状以外にもいろいろな合併症がみられています。
花粉症は、原因となる花粉が鼻に侵入してこなければ症状は起きませんから、治療の第1歩は原因花粉と接触しないことです。そのためには、花粉飛散情報を利用して外出や窓の開閉の工夫をして花粉曝露を避ける、マスクや眼鏡を利用して侵入する花粉の量を減少させる、職場、学校、自宅の中に花粉を持ち込まない、などの対策が重要です。しかし、完全に花粉曝露をシャットアウトするのは困難です。たとえマスクをしても呼吸や会話に伴ってマスクの隅から花粉は侵入してきます。その他、もっとも広く行なわれているのは薬物療法です。いろいろな特徴をもった薬剤がありますので症状に合わせて使うことで高い効果がみられますが、ただあくまで症状を抑えるもので、根本治療にはなりません。現在唯一根本治療の可能性を持つのは特異的免疫治療(減感作療法)と呼ばれるものです。さらに、薬物などの治療に改善がみられない方には手術治療も検討されます。治療に当たっては当然ですが、ご自分の症状や困っていることを正確に伝え的確な治療、アドバイスを受けるためにも医師とのコミュニケーションを十分に取ることが大切です。
花粉症の治療には様々な特徴をもった薬剤が使われます。もっとも広く用いられているのは抗ヒスタミン薬というものです。内服が多いですが鼻への噴霧薬としても使われます。くしゃみや鼻水に有効でかつ即効性があります。ただ、鼻づまりに対しては効果が落ちます。抗ロイコトリエン薬、抗トロンボキサン・プロスタンジン薬は特に鼻づまりに対して高い効果がありますが、効果が十分にみられるまで時間がかかります。ヒスタミンやロイコトリエンなどを化学伝達物質と呼びますが、これらの放出を防ぐ化学伝達物質遊離抑制薬、あるいはTh2阻害薬と呼ばれる薬は鼻づまりにも効果がみられますが、やはり効果の発現に少し時間がかかりますので、これらの薬は症状が強く発現してから単独で使用してもすぐに改善効果は得られません。鼻噴霧用のステロイド薬は効果が強く、くしゃみ、鼻水、鼻づまりのどの症状にも効果が見られます、1~2日で効果が出現し、スギ花粉症の症状がある程度強い方には不可欠で、多くの場合他の薬と組み合わせて処方されます。漢方薬は一般的には効果はマイルドでその発現にも時間がかかりますが、高い効果がみられる方もいらっしゃいます。これらの薬はいずれも副作用を生じる可能性があり、合併する疾患によっては投与が出来ないもの、あるいは他の薬との飲み合わせに注意が必要なものがあり、医師、薬剤師との相談が必要です。また一般的ではないのですが、花粉飛散ピーク時に症状が非常に強い方には短期間ステロイドの内服薬の投与、鼻噴霧用の血管収縮薬の投与が行なわれることもあります。ただ、これらは長期投与すると副作用の発現がみられ注意が必要です。
アレルゲン免疫療法はアレルゲンを少量ずつ増量しながら投与し、アレルギー反応をおこしにくくする治療法です。ハウスダスト(ダニ)や花粉などのアレルギーを対象に、海外では100年以上の長い歴史があります。これまでは皮下注射でアレルゲンを投与していたため、痛みがあったり、稀ですがショック反応を起こす危険性がありました。 一方、舌下免疫療法は舌下にアレルゲンを数分間ためてから飲み込む方法で、自宅で投与でき安全性が高いことが特徴です。わが国ではスギ花粉症の舌下免疫療法薬が2014年10月から登録医療機関で処方可能になりました。これまで薬物療法しか行ってこなかった患者さんにも受け入れやすくなり、有力な選択肢が増えたと言えるでしょう。
薬物アレルギーでは様々な症状が現れますが、最もよくみられるのが皮膚症状です。皮膚症状は8割以上の患者さんに現れ、「薬疹」とよばれます。 薬疹は、蕁麻疹や湿疹、ニキビのような赤い斑点ができる軽症のものから、薬を飲むたびに同じ場所が赤くなり、治るとシミになることを繰り返す固定薬疹、水疱やびらん(ただれ)が体中に広がる重症薬疹まで多彩です。他にも呼吸器障害(喘息発作や間質性肺炎、好酸球性肺炎)が現れたり、検査によって肝障害、腎障害、血液障害(貧血、好酸球増多、白血球数異常、血小板減少)が見つかることもあります。
薬物アレルギーのなかでも生命を脅かす重篤なのが、アナフィラキシーと重症薬疹です。アナフィラキシーは、全身に起こる即時型アレルギー反応で、薬剤が投与されてすぐに、体のかゆみや赤み、蕁麻疹、鼻水、喘息発作、腹痛、下痢、嘔吐などが分単位で現れ、血圧が下がり、呼吸困難に陥り意識を失うこともあります。重症薬疹については他項をご参照ください。
通常の投与量にも関わらず、薬剤投与後に異常な症状が現れたときに、薬物アレルギーを疑います。皮膚症状は出現頻度が高く、内臓の異常に比べ気づきやすいため、薬物アレルギーを疑う良いきっかけになります。ただし、薬は大抵、感冒など具合が悪いときに投与されるので、その異常症状が病気のせいなのか、薬剤のせいなのか迷います。そこで、薬物アレルギーか否かを判断するために参考になるのが、薬剤投与開始から異常症状が出るまでの期間です。薬物アレルギーが発症するまでには、薬剤が体内に入り、薬剤に反応する抗体や細胞が体内でつくられるための準備期間(医学的には「感作期間」という)が必要です。したがって、初めて使用した薬剤では、投与開始から発症までに5日~2週間(ときに1ヶ月以上)経過していることが一般的です。一方、以前にも使用したことのある薬剤ならば、投与後1日~2日以内に発症してもおかしくありません。
抗菌薬や消炎鎮痛薬、感冒薬、抗痙攣薬、痛風治療薬は、薬物アレルギーを起こしやすく、また重症型になる恐れもあるため注意が必要です。抗菌薬では、ペニシリンやセフェム系などの抗菌薬が即時型、遅延型のアレルギー反応ともに多く起こしやすいのですが、テトラサイクリン系の抗菌薬やサルファ剤、抗結核薬などもアレルギーを引き起こします。それらに次いで、高血圧や糖尿病の治療薬や、画像検査に用いられる造影剤、局所麻酔薬、抗腫瘍薬、関節リウマチ治療薬によるものも少なくありません。
また、薬剤には食物成分が含まれることがあり、卵や牛乳アレルギーがある人は注意が必要です。消炎鎮痛薬には卵由来の塩化リゾチームが、下痢止めには牛乳由来のタンニン酸アルブミンが含まれている場合があります。
重症薬疹とは、生命に関わる重篤な薬疹をさし、その代表としてスティーブンス-ジョンソン症候群(SJS)、中毒性表皮壊死症(TEN)、薬剤性過敏症症候群(DIHS)があります。 いずれも高熱や肝障害などの多臓器障害を伴うことが多く、SJSやTENでは、眼や口唇・口腔粘膜の炎症と皮膚の紅斑、水疱が特徴的です。SJSは、粘膜症状、特に眼瞼結膜の充血、めやに、唇や口腔粘膜のただれ、出血が目立ちます。TENは、SJSより皮膚症状が著しく、体の広い範囲に紅斑や水疱がみられ、皮膚の表面(表皮)が壊死をおこしているために、赤くなった皮膚を擦るだけで剥けてしまいます。SJSやTENでは後遺症として失明などの視力障害などの眼の障害や呼吸器障害がみられることがあります。重症薬疹では、軽症の場合と異なり、原因薬物を中止しても悪化してしまう傾向があり、緊急入院が必要です。(実際の症例については、厚生労働省 重篤副作用疾患対応マニュアル 参照)
原因薬物を特定する検査として、血液検査、皮膚テスト、再投与試験があります。このなかで、最も確実な診断方法は再投与試験ですが、再投与により症状が再びあらわれ、重い症状が誘発される恐れがありますので、その必要性と安全性を十分考慮して行います。そのため、再投与試験の前に、より安全な検査を行うことが一般的です。例えば、アナフィラキシーを発症した患者さんでは、即時型アレルギーをみる皮膚テスト(プリックテスト、スクラッチテスト、皮内テスト)を、遅延型アレルギーではパッチテストといったように、症状に合わせて検査を選びます。また、遅延型アレルギーの血液検査に、リンパ球刺激試験(DLST)がありますが、検査の信頼性は低く、それだけで診断できないことがあります。再投与試験以外の検査は、薬剤によって陽性率が異なり、陰性であっても原因薬剤を否定できない点に注意が必要です。したがって、専門医のもとで、総合的に判断されることが重要です。
蕁麻疹は、一部の例外を除き、ほとんどのものが皮膚の中にあるマスト細胞と呼ばれる細胞が活性化されることにより症状が起こります。マスト細胞を活性化する刺激としては、アレルギーの原因となる物質、薬剤、皮膚をこすることや温度の変化、皮膚を日光にさらしたり、汗をかいた時などがあります。しかし、蕁麻疹の中で最も多く発生する特発性の蕁麻疹は、明らかな刺激なく症状を繰り返すことが特徴です。このタイプの蕁麻疹の要因としては、疲れ、ストレス、細菌やウイルスの感染、マスト細胞を活性化する自己抗体の存在などが知られています。しかし、これらがどのようにして特定の人に、またある時間にのみマスト細胞を活性化するのかということは、まだ良くわかっていません。そのため、蕁麻疹の原因とは一つではなく、いくつかの要素が組み合わさって一定以上のレベルにまで達した時に症状が現れると考えられます。血管性浮腫と呼ばれる、まぶたやくちびるなどが突然膨れあがって2,3日かけて消える病型では、長く飲んでいる高血圧の治療薬の一種や遺伝子の異常が原因となっていることもあります。
蕁麻疹は、大きく4つのグループに分けられます。明らかな原因がなく自発的に症状が現れる特発性の蕁麻疹、特定の刺激により症状が出る刺激誘発型の蕁麻疹、目や口などの皮膚、粘膜が腫れ上がる血管性浮腫、そして蕁麻疹関連疾患です(表)。刺激誘発型の蕁麻疹の中には、特定の食べ物や薬などで症状が現れるアレルギー性の蕁麻疹、アレルギーではない薬剤による蕁麻疹、特定の物理的な刺激により現れる物理性蕁麻、発汗刺激により起こすコリン性蕁麻疹などがあります。物理性蕁麻疹では、皮膚が擦れた時に現れる機械性蕁麻疹、冷たいものに触れて起こる寒冷蕁麻疹、日光に曝されて起こる日光蕁麻疹などが主な病型です。なお、これらは一つだけが現れる他に、患者さんによっては複数の蕁麻疹の病型を併せ持っていることも少なくありません。
(日本皮膚科学会雑誌121: 1339-1388, 2011より引用)
蕁麻疹の検査は、詳しい問診(患者さんのお話しを聞く診察のこと)に基づいて行われます。皮膚症状が、いつも特定の食べ物を食べた後や行動、場所に限って現れる場合は刺激誘発型の蕁麻疹が考えられます。その中には、アレルギーが関係しているものも含まれます。アレルギーが関係している場合は、血液検査が一般的ですが、疑われる物質で皮膚を刺激して調べることもあります。食べ物、薬剤、運動などの関連が疑われる場合は負荷試験、つまり、疑われる刺激を患者さんに加えて実際に症状を起こす試験が行われることもあります。蕁麻疹以外に発熱、体がだるい、疲労感がある、関節が痛む、胃が痛む、などの症状がある場合は、それぞれの症状に基づく血液検査や、胃の検査などが行われることもあります。しかし、蕁麻疹では最も頻度の高い、自発的に症状出現を繰り返す特発性の蕁麻疹の場合は、今のところ原因や重症度を調べるための検査はありません。ただし、特発性の蕁麻疹でも、一カ所の皮膚症状が1日以上消えない場合は皮膚の一部を採って顕微鏡で調べる皮膚生検が行われることもあります。また、繰り返しまぶたやくちびる、あるいは喉が腫れて息苦しくなる血管性浮腫という病型の場合は、遺伝性か否かを見分けるための血液検査が行われることがあります。
蕁麻疹の治療の基本は原因・悪化因子の除去・回避と、抗ヒスタミン薬を中心とした薬物療法です。発症初期の特発性の蕁麻疹では2,3日間抗ヒスタミン薬を内服し、症状が現れなければ徐々に薬の量を減らします。発症後の時間経過が長いものでは、症状が出なくなってから後に、もう少し長く内服を続けます。具体的には、発症後1~2ヶ月間経過したものでは1ヶ月間、2ヶ月以上経過したものでは2ヶ月間を目安として、症状が現れないように抗ヒスタミン薬を飲み続けます。一方、一種類の抗ヒスタミン薬では症状が治まらない場合は他の薬に変更、追加、またはそれまで飲んでいた薬の量を増やすなどのことが行われます。急性期には、副腎皮質ステロイドの内服または注射が併用されることもありますが、副作用を避けるため、原則として何週間も続けては使われません。まれに、痛み止めや高血圧の治療薬が蕁麻疹、血管性浮腫の原因になっていることがあるので、注意が必要です。蕁麻疹には、一般的につけ薬の効果は期待できないので使いません。また、遺伝性の血管性浮腫の発作にはC1インヒビターの点滴または静脈注射、アナフィラキシーを起こしている場合はアドレナリンの筋肉注射が必要です。妊娠中、特に妊娠2ヶ月に相当する時期までは、安全性の視点から飲み薬は使わないことが望まれます。しかし、いくつかの抗ヒスタミン薬は妊婦が飲んだ経験が蓄積しており、必要に応じて使われることもあります。
蕁麻疹がいつ治るかは、人により、また蕁麻疹のタイプによりかなり大きな開きがあり、一人一人の蕁麻疹が治る時期を予測することはできません。ただし、明らかな誘因なく、自発的に症状が現れる特発性の蕁麻疹の90%以上は1年以内に治ると考えて良い様です。また、発症してからの日数が長いほど、そしてこどもよりもおとなの方が、治るまでに長くかかる傾向があります。一方、蕁麻疹の重症度と治るまでにかかる日数の関係は無いようです。発症後6週間以上経っても一種類の抗ヒスタミン薬で症状が治まらない慢性蕁麻疹の経過を調べた研究では、治癒、つまり、無治療でかつ症状が現れない状態に至るまでの期間が平均で約6年(73ヶ月)であったことが報告されています。しかし、その報告では、治療を始めて2年後には、半数以上の人が一種類の抗ヒスタミン薬を飲んでいれば症状が現れない状態になっていました。また、発汗刺激により症状が現れるコリン性蕁麻疹は10代から20代の人が多く、ほとんどの人は30代前半までに治るか、ほとんど気にならない程度まで良くなるようです。エビやカニなどの甲殻類、あるいは野菜や果物を食べて症状が現れるアレルギー性の蕁麻疹についてはほとんど研究がなく、今のところ具体的な数値を挙げることができません。
石鹸使用開始後数カ月から数年して、小麦の食物アレルギーを発症する患者さんが多いです。 典型的な症状の方は食物アレルギー症状が出てくる前に、まず、石鹸を使用した時に、眼のかゆみや皮膚のかゆみ・鼻炎症状が始まり、その後、小麦を食べたときに食物アレルギー症状が出るようになります。しかし、石鹸を使用した時の症状は必ずしも強いものではなく、食物アレルギーが発症していても、洗顔時の症状を全く自覚していなかった方も約3割程度います。食物アレルギー症状がなく、洗顔時の症状のみがあったという方はあまり多くはありません。石鹸の使用を続けると、この石鹸使用時の症状と食物アレルギーの症状は少しずつ悪くなっていきます。 小麦を食べた時のアレルギー症状は、患者さんによって様々ですが、眼のかゆみや眼の腫れ、顔のかゆみや顔の腫れ、鼻炎症状などの、石鹸を使用した時に出るものと同じような症状がでることが多いようです。アレルギー症状が軽い場合は、眼や鼻、顔の症状だけのこともありますが、症状が重篤な場合は、腹痛・下痢、血圧低下、ふらつき、呼吸困難などの様々な症状注)が出現します。 小麦を食べた時に必ず症状が起こるとは限りません。小麦を食べた後運動をしたときにのみ、食物アレルギーの症状が起こる患者さんも少なくありません。これを小麦依存性運動誘発アナフィラキシーと言います。 以上にご説明したことは、典型的な症状であり、必ずしもすべての患者さんがこの典型的な症状になるわけではありません。
注)このような重篤なアレルギー症状のことをアナフィラキシーといいます。
確かに、小麦を食べて消化管から吸収された小麦でアレルギーになるこれまでのタイプの小麦アレルギーでも、子供の時に小麦アレルギーがなくて、大人になってから初めて小麦アレルギーになってしまう人もたくさんいます。このような小麦アレルギーでも、小麦を食べて運動した時のみにアレルギー症状が出る(運動誘発性のアレルギー)ことが多く見られます。これらの患者さんの症状としては、顔がかゆくなることもありますが、むしろ全身にブツブツと蕁麻疹がでることが多い傾向があります。 しかし、2009年頃から、主に20-60歳代の女性に今までとは少し症状の異なる小麦アレルギーの患者さんが急に増えてきました。その方は、小麦を食べると瞼がはれる、顔がかゆくなるといった、これまでの小麦アレルギーの患者さんの多くとは少し違った症状をもっており、そのような患者さんは皆、この“(旧)茶のしずく石鹸”を使っていたのです。しかも、その石鹸の中に加水分解コムギという小麦由来の成分が含まれていました。 もしかすると、この石鹸のこの成分が、小麦アレルギーの原因かもしれないという仮説のもとに調べたところ、“(旧)茶のしずく石鹸”を使っている小麦アレルギー患者さんは、その加水分解コムギに強いアレルギー反応を持っていることが分かってきました。普通の小麦アレルギーの人はこの加水分解コムギにはアレルギー反応はないか、あってもその程度は大きくありません。加水分解コムギは、天然の小麦を人工的に加工したもので、天然の小麦にはない、人工的なアレルゲン性(加水分解したときにしか現れないアレルゲン性)をもっています。その後詳細に調べていきますと、この石鹸で小麦アレルギーになった患者さんは、天然に存在する小麦成分とこの人工的なアレルゲン性を示す部分の両方にアレルギーになっていることが分かりました。このような現象は普通の小麦アレルギーの方には見られませんでした。このような研究から、加水分解コムギに対するアレルギーを生じ、結果的に食事に含まれる天然の小麦に対してもアレルギーが引き起こされたことが証明されています。
この病気は数年前から分かってきた新しい病気なので、5年後、10年後どうなるのかということに関してはまだ分かっていません。一般に、大人になってから発症する食物アレルギーは、治りにくいと考えられています。しかしながら、この病気の患者さんの多くで、石鹸の使用を中止したのち、血液中の小麦アレルゲンへのアレルギーの反応が軽くなってきているようです。血液の反応のみならず、小麦を食べたときのアレルギー症状も軽くなっていったり、症状も以前よりも出にくくなったりしています。一方で、現在でも小麦を全く摂取できていな患者さんも少なくはなく、全ての患者さんが改善していくかどうかはまだわかりません。今後も長期的に、症状がどうなっていくかに関しては継続的な調査を行う必要があります。
当委員会の調査によると、2013年12月現在までに2078人の患者さんがこの病気になっていることが分かっています。この石鹸は2010年9月までに46,508,000個販売され、4,667,000人に販売されたとされています。販売された人から石鹸を配られて使用した人もあり、使用した人の概算は5,909,000人になります。 このような数字から推測すると石鹸使用者のおよそ約2800人に1人の方がこの病気を発症したものと考えられます。
加水分解コムギは、その作り方もメーカーによって若干異なり、さらに製品によって使用濃度や使用方法も異なります。今回“(旧)茶のしずく石鹸”では小麦アレルギーの患者さんが多発してしまいました。(旧)茶のしずく石鹸に入っていた加水分解コムギはグルパール19S(片山化学工業研究所)という製品名のものでした。グルパール19Sが含有された茶のしずく石鹸以外の製品(石鹸等)でも同様の小麦アレルギー患者さんが発症していることが確認されています。しかし、グルパール19S以外の加水分解コムギを含有した製品で小麦アレルギーが複数人発症したという報告はまだありません。したがって、加水分解コムギを含むその他の製品までもが危険であると断定することはできません。ただ、同じようなことが他の製品でも起こってしまう可能性も100%は否定はできません。小麦アレルギーであると診断された人については、その他の加水分解コムギ含有製品の使用についても控えて頂くようお勧めします。 現在のところ、たくさんの患者さんの発生が報告されているのは、“(旧)茶のしずく石鹸”のみです。その理由は現在調査中ですが、加水分解コムギ(グルパール19S)の含有濃度が他の製品に比べ高かったということと、グルパール19Sに分子量の大きなタンパク質が多く含まれていたことは関係していたと考えられています。また、グルパール19Sの製造過程で、原材料のグルテンが、よりアレルギーを起こしやすい小麦アレルゲンに変化していたことも明らかになってきています。その他、洗顔石鹸という使用用途で使用したために、比較的アレルゲンが吸収されやすい眼や鼻の粘膜に石鹸が付着し、アレルゲンにさらされやすくなっていた可能性、また、石鹸は界面活性剤がおもな成分ですから皮膚のバリア機能(皮膚が体外の物質を透過させない機能)が低下し、アレルゲンが吸収されやすくなっていた可能性も考えられています。
食物依存性運動誘発アナフィラキシーとは、食事を摂取しただけでは問題ないけれども、食事の後に運動した時にのみ食物アレルギー症状が出てしまうことをいいます。小麦の場合を例にとってもう少し詳しく説明させて頂きますと、小麦アレルギーは、小麦の中のタンパク質が原因(アレルゲン)になります。一般的に、口から摂取した食物のタンパク質は、食べた後胃や腸の消化酵素で、ペプチドやアミノ酸といった細かい物質にまで十分に分解されてから吸収されます。ですので、食物タンパク質は、そのままの形で直接体の中には吸収されません。 しかし、小麦を食べたあとに運動をすると消化が不十分なままの小麦タンパク質が体に吸収されやすくなります。そのため、そのような小麦成分に対するアレルギーを持つ人が小麦を食べた後に運動すると、アレルギー症状を起こしやすくなると考えられます。 ただし、小麦アレルギーの強い人は、コムギ製品を食べただけで運動をしなくてもアレルギー症状が起こります。また、そういう方が小麦を食べたあと運動すると、運動しない時に比べてもっと強いアレルギー反応を起こすようになります。
本当に小麦アレルギーになっているかどうかをはっきりさせるために、食物アレルギーを専門に診療している医療機関に受診して、医師の診察をうけることをお勧めいたします。血液検査、皮膚アレルギー検査などで小麦アレルギーになっているかどうか調べることができます。 現在、”(旧)茶のしずく石鹸”によるアレルギーを診療可能な医療機関リストはこちらです。